12月、陸奥湾で漁が解禁されるのを皮切りに、青森に冬の訪れを伝える魚・真鱈。脂が乗った真鱈が陸奥湾に集まるこの時期は旬魚としての顔を持つ一方、年取り魚として食卓に欠かせない存在です。
かつては雪道の中を引きずって自宅に運んでいたエピソードが残るように、台所でさばくには大きな魚ですが、昔のお母さん方は身や頭、内臓、骨と部位ごとに切り分けて、年越しのために数々の鱈料理を作っていました。
そんな真鱈のおいしさを余すところなく堪能できる伝承料理のうち、津軽の方々と共に後世に伝えたい津軽の伝承料理“津軽料理遺産”として認定した真鱈の料理をご紹介。心も身体もポカポカになる料理をご堪能ください!
じゃっぱ汁
じゃっぱとは「ざっぱ」、つまり真鱈の内臓や骨、あるいはヒレ、頭、皮といった捨ててしまうような部位を表す津軽弁。でも、そんな部分にこそ美味しいエキスがたっぷりと詰まっているのが真鱈の良さ。そこで、余すことなく鍋に入れて、大根などの野菜と一緒にグツグツ煮込んだのがじゃっぱ汁。
その主役はアブラと呼ばれる肝や内蔵。フォアグラのようなコクやクニュクニュの弾力といった各部位の特長が、味噌仕立て(海沿いを中心に場所によっては塩仕立て)の味で際立ち、食べ進むうちに舌は鱈のエキスに染まっていきます。もちろん、大根などの野菜も鱈の旨味をたっぷり吸い込みます。
特に海から離れた地域で暮らす人にとって、真鱈は正月にだけ口にするごちそう食材。余すことなく食べることで食材に対する感謝の意を表す代表的な料理です。
タツ刺し
“タツ”とは真鱈の白子のこと。南部地方では“キク”と呼ばれるこの部位を刺身で食べるのがタツ刺し。傷みやすいタツを刺身で食べるのは、むつ湾から水揚げされて間もない新鮮な真鱈が入手できる環境ならではのもの。
歯で薄皮を破った瞬間に広がるのは、きめ細やかで滑らかな口当たりと濃厚なコク。さっと湯通しして粘膜のヌメリを取り除く調理法が基本形ですが、中にはそのまま刺身で食べる方もいらっしゃいます。
真鱈の昆布締め
津軽で真鱈の刺身と言えば昆布締めのこと。傷むのが早い真鱈の身をおいしく食べるためのひと工夫が欠かせません。
薄く切った真鱈の身を昆布で挟むことで、余分な水分を昆布に吸収させつつ昆布の旨みを身に移し、白い身が飴色に変化するころに食べ頃を迎えます。淡白で上品な旨さが昆布の旨味と合わさって、更においしさが増すだけじゃなく保存性も高まる。知恵と工夫が生み出した津軽の美味です。
真鱈のとも和え
とも和えとは、ある食材を同じ食材で作った和え衣と和える調理方法のこと。鱈のとも和えは、真鱈の身や皮を肝の和え衣と和えた一品。特に、津軽地方にはとも和えが多く、他にもあんこうやかすべ(えい)でも作られます。
醤油や味噌で調味された肝のコクをまとった身や皮の味が、特に日本酒好きにはたまらないはず。最近は飲食店でもこれを作るお店が減ってしまい、見かけた時が食べごろとも言える一品です。
真鱈子の醤油漬
丸々太った真鱈の卵巣から丁寧に取り出した卵に、醤油や塩、あるいはナンバ(唐辛子)や、あらめ昆布(粘りを出す昆布)、するめいかなどを混ぜて作るのがこの料理。
“真鱈子の塩辛”とも呼ばれ少しずつ味付けの濃淡に違いが出ることもある、まさに家庭の味。もちろん、アツアツごはんとの相性も抜群。津軽の冬の食卓に欠かせない隠れた主役です。
子和え
真鱈の卵巣と野菜や凍み豆腐などの食材を和えた料理がこの一品。
特に、正月料理として欠かせないのがにんじんと和えた“にんじんの子和え”。冬には雪で閉ざされる津軽の地では根菜類も貴重な食材。その鮮やかなオレンジ色も相まって縁起物として親しまれています。
また、津軽地方の旧岩木町(現在の弘前市)の一町田(いっちょうだ)地区で採れる、400年以上の歴史を持つ伝統野菜・一町田セリと、真鱈子を和えて作るのが“一町田セリの子和え”。
強い香りと苦みが存在感を放つセリと真鱈子の組み合わせは、子に染み込まれた塩味が野菜の味を際立てる一品です。